2011年6月12日日曜日

藤本賢一氏 レポート①『重力ピエロ』

藤本賢一氏の現場から

撮影ははるか前に終わっているので、まさに2日前にマスタリングが終了した仕上げ現場の事を書いてみようとおもいます。
7月から日活のDSE-2で整音を始めました。9月下旬のダビングでこの時期からの仕込み態勢は恵まれた作品だと思いますが、前作からプロデューサーに訴えつづけた「Film All RushからPREMIXまで1ヶ月は下さい」が具現化されたのと、監督が望んだ編集期間や音楽合わせ期間を了承してくれたからでした。しかし、今回は7巻の各ロール整音に4日はかかってしまい、ARが日にちとびとびに4日あり、その素材選択や合わせ、なじませを含めるとARだけで6日はかかっていて、編集直しなども時間はとられるので、結局、生ARの収録は助手の反町君にやってもらい、音楽録りやトラックダウンには立ち会えず、 PREMIXで全貌を知るという結果になってしまいました。

1ロールの整音に4日ってなにしてんの?と思われるかもしれませんが、特別な事をしてるわけでなく、カットごとのノイズつなぎや、台詞のキャラクター・レベル設定、各ロールに絶対にある滑舌の悪い台詞の別テイク・テスト探しはめかえ、これまた絶対にあるキッカケの声、カメラノイズ、移動車ノイズ、ライトノイズ、不必要な音のはめかえ作業、リップノイズ抜きなどをやっていくと、1ロール20分弱が一向に進まない、これらの事をやった後の音のことをいろいろ考え巡らしたいのに、目の前のそれらの事に消耗が激しい。

PC作業にかかせない、麦茶とアイボンと肌水と冷えピタ。そしてコマンド作業で痛くなってくる手首用のアンメルツ

PC作業にかかせない、麦茶とアイボンと肌水と冷えピタ。そしてコマンド作業で痛くなってくる手首用のアンメルツ』
これらを支えに地道な作業を続ける。やらないと良くならないのにうまいことやったらやったで気にならなくなり気づかれない作業。

 どの撮影でも現場の音環境で毎回苦労するが、そうそう撮影に都合の良い場所があるわけではないから覚悟しているものの、今回ほどノイズリダクションに時間がかかった作品はなかったです。メインの家のロケ部分を海沿いの丘の上の別荘をお借りしたのですが、マイクを通してここは海の音が波の音に聞こえなく、動きのあるゴー音として聞こえ、部屋の中の一部を仙台港の大倉庫の中にSETを建てて撮影したのですが、港に大型客船や貨物船が停泊している間はずーっと唸り続けているし、倉庫なので周りの作業音、雨が降ればゴー音、風が吹けば屋根やシャッターがガシャンガシャンなる始末でした。

画はのどかな潮騒が聞こえてくるような感じで撮影されているので、現場では延べ80シーンのARをする気でいました。ところがそれは、あれだけ現場でうるさいと言ってただろうといっても、画に合ってないだろうと言っても認められない、台詞が聞こえてるからだ。「映画はALL SYNCROの上ALL ARをしていいとこどり」をするべきだと思う。でも現実的ではない、まず監督と俳優がARを嫌がる、そしてプロデューサーも現場の音で成立するならばその方がいいと思っている。

僕だって現場で助手が必死に送ってくれた音の方がいいにきまってる。だいたい20年以上録音に携わっていて、自分の関わった作品でSyncroを上回った ARなんて経験したことがない。一言二言や息づかい、物理的に収録できない場面は別にして、現場の不要な音の為に芝居場面をARして良かった台詞なんて一度も経験したことがない。したがって 少しでも条件のいい音にしていく作業とARとの並列に長時間のPC前の為の最善のイス。

少しでも条件のいい音にしていく作業とARとの並列に長時間のPC前の為の最善のイス





















藤本賢一氏