2011年4月10日日曜日

紅谷愃一氏 「蒼き狼 地果て海尽きるまで」  2006年6月

角川春樹事務所制作、松竹配給のこの『蒼き狼 地果て海尽きるまで』は、海外での大がかりな合戦シーンを含め全体のスケジュール問題もあって当初からB班監督が起用され、少数編成ではあるが別班スタッフが組まれた。

録音部A班は小生と助手3名、B班は技師1名助手1名の2名、計6名の編成である。

録音機材はロケハンの結果をふまえ、ラフロード・砂塵を考慮してアナログとデジタルの混成にした。ポータブル調整卓はCooper Sound CS106 MIXER、予備にAudio Deveropments AD145 MIXER
レコーダーはNAGRA IV-Sを主体にSound Devices 744T HD RecorderFOSTEX PD-4 DAT RecorderRoland R-4 HD Recorder等。

マイクはSENNHEISER MKH-416P48 Gun MicMKH-816P48 Gun Micを主体に、RAMSA Wireless Mic6波。カートにMagliner Sound Cart

その他大量のマイクケーブルを含め、予算を担当するプロデューサーが頭を抱える程の大荷物である。カメラは香港、照明機材は北京、録音機材は東京と輸送ルートはそれぞれ異なるが、結果的にやはり東京から直の方が問題は少なかったようである。 



筆者:紅谷愃一氏




当地ウランバートルに来て早や4週間が過ぎようとしている。その間、長年仕事でご一緒した今村監督の訃報が入り、東京を発つ時すでに覚悟はしていたが、やはり大きなショックであった。心からご冥福をお祈り致します。

ここモンゴルも異常気象で6月に入っても気温の上昇が鈍く、その為家畜の餌になっている牧草の育ちが悪く、この映画の準主役である馬の調教がかなり遅れていた。

我々が宿泊するFLOWER HOTELは日系人の経営で、フロントも比較的日本語が通じるので有難い。そしてこのホテルには一応中華料理、和食、洋食風の三軒の店があるので何とか凌げそうであるが、ただし和食は東京並みの値段である。車を使えば韓国焼肉、日本食、ロシア料理店などがあるが、仕事が終わって外に食べに出るのもおっくうである。有名なアイラグ(馬乳酒)は幸い?まだ飲む機会に恵まれないが、やはりモンゴルウォッカを飲む機会が多い。街を歩けばロシア語、ハングル文字の看板が目につく。やはりロシアの影響を受けているのを感じる。スリ被害の話をよく耳にするが、特に人混みの多いところは要注意とのことである。日本から持って来た多くの半袖シャツは、思いのほかの寒さで未だ役に立っていない状態で、本当に暑い夏が来るのか心配である。

 

当初クランクインは6月2日に設定されていたが、諸般の事情により6月4日に変更された。当日、日本・モンゴル合せて100人以上のスタッフが、先発隊は午前6時、本隊は8時にそれぞれ宿泊先のホテルを出発した。

ウランバートル市内から東へ車で1時間半程の道程である。国道を外れると砂地のデコボコ道が続く、砂煙を上げて車がガタガタ音をたて軋みながら走る。

撮影初日は誰しも緊張するものであるが、今回は特にモンゴル人スタッフと現地エキストラとの言葉の壁を突破しなければならない。モンゴル語の発音はとても難しい。この映画は日蒙合作ではあるが、セリフは勿論日本語である。

ロケ現場にはすでに美術部が設営したゲルが建ち並び、小さな聚落(アイル)が出来上がっていた。馬30、羊150、駱駝6、それに子供を含めエキストラ60人、すでに子供たちがモンゴル語で遊び廻っていた。

撮影が始まると、当初心配していたエキストラの人声はモンゴル側助監督の協力でなんとか押さえる事ができたが、荷車を引いていた駱駝のご機嫌がこの日は悪かったのか、ラッパのような大きな鳴き声が2頁に及ぶ長セリフに容赦なく割り込んで来て、150頭の羊の鳴き声と共に初日から思わぬ苦労を強いられた。予想はしていたが、動物の扱いは今後とも頭の痛い問題である。


 

このロケ現場にも、遠く離れた小高い丘の方からカッコーの鳴き声が聞こえてきたが、モンゴルの草原にこの可愛いカッコーの鳴き声はどうしても似合わないのである。

3日目の撮影は最も心配していた強風に悩まされた。ウランバートルはすでに標高1,351mである。市内からロケ現場へ向かうには小高い山をいくつか越えなければならない。その為、すでに標高差も違うのであろう、ホテルを出発する時点では撮影現場の気温と風の状態が非常に分かりにくいのである。この日は砂塵が舞い上がり容赦なく目に砂が入る程の強風で、マイクの風防を通常より厚めにせざるを得なくなり、セリフのキャラクターに大きな影響を受けた。

この時期すでにモンゴルの陽の入りは遅い。夜の8時過ぎ迄DAYシーンが撮れる為、オーバーワークに気をつけなければならない。

現在帰国は9月10日頃の予定であるが、気の抜けない毎日であり、まだまだ何かが起こりそうである。




紅谷愃一氏